進路を選ぶ

「求人の電話できた?」

「まだっす」

 高校を卒業したタケルさんは、友達がカードゲームをしている様子を見ながら答えました。彼はコンビニに就職をしようとしていましたが、二の足を踏んでいました。求人情報の詳細を聞くための電話をするだけなのに、どうもうまいこと進んでいません。私はもう少し聞いてみることにしました。

「なんかあったの?」

「いや~、社会の最低限のマナーがあるじゃないですか。話し方とか。一応ネットで調べてみて、電話で話すことを書いてるんですけど、途中で終わってしまいました…。」

 “社会の最低限のマナー”か…。ものすごい圧を感じる言葉の響き。

 もともとタケルさんは優しい人です。すごく優しいんです。気遣いはできるし、友達への思いやりがあります。言葉遣いも悪くありません。その上でさらにマナーを身につけようとしています。彼から見ると「最低限のマナー」とは「最大限のマナー」なのでしょう。

「電話するのが難しかったら、代わりに電話をしようか?」

「いや、いいです。自分でします。」

「え~、なんで~?」

「これまで周りの人にお世話になったんで、これからは自分でやろうと思います。」

 彼は自分で決断していく人なので、あまり人に頼るということはしません。私としてはもう少し頼ってくれても良いのになぁ~と思っています。

「わかった。じゃあ電話で何を言うか考えようか!」

 私はペンを取り出して、電話で話す原稿を書いていきます。その間も彼は私の方を向くことなく、友達がカードゲームをしている方を向いていました。私はタケルさんに尋ねました。

「最初に話す言葉は、『求人についてお伺いしたいのですが、よろしいでしょうか?』とかどう?」

「ネットで見たんですけど、電話に出た人が求人の担当者じゃないこともあるらしいので、『担当の方はおられますか?』って言わなくて良いですか?」

「たぶんどっちでも担当の人につないでもらえると思うけど、『担当の方』を言っても良いよ。」

 そんな話をしていると、カードゲームをしていた友達から、

「こっちばっかり見てないで、りょうたさんと一緒に考えろよ。考えてもらってばっかりじゃん。お前のことだろ。」

とビシッと言われました。

 確かに人任せで全然真剣に考えてないように見えるかもしれません。でも私達はちゃんと会話はしています。体の向きはカードゲームですが、心は私に向かおうとしています。ただ頼り方がわからないだけで、彼なりに考えようとしているんだと思います。少なくとも私にはそう伝わります。

 原稿が出来上がったので、今から電話をするかタケルさんに聞いてみました。

「ほどきで電話しても良いよ。」

「う~ん…。家に帰ってもう1回電話してみても良いですか?それでできなかったら来週ほどきで電話します。」

「わかった、そうしよう。」

 タケルさんが考えている途中途中で「こうしたら?」「こっちはどう?」と茶々を入れながら、彼の進路が決まるまでのプロセスをぼちぼちと辿っていきたいと思っています。

(りょうた)

図書室の本が少しずつ増えてきました。