ストレートはストカールに変わる。
彼はいつもストレート
今回の話はいつもより長めです。
ほどきに来ている小学校中学年の男の子がよく発する言葉をご紹介します。
「バカ~!」「アホ~!」「うんこ~!」「死ね~!」「じじくそ~!」
なんともストレートで力強い言葉達ですよね。
スタッフの私に対しても、彼は強い言葉で関わります。
彼「まえおか~!はやくもってこい!!!」
私「はいはい~。」
なんか手下みたいですが、いつもこんな感じです。
言葉もそうですが、行動もストレートです。
気になったものがあると、急に走り出します。
道路への飛び出しは毎回ヒヤヒヤします。
力の調整もストレートで、友達のじゃれあいでポンと触れたつもりが、叩いたようになってしまい友達を泣かせることもあります。
ストレートは変わる
そんなストレートすぎる彼ですが、すこ~しずつストレートさを和らげようとする姿も見られてきています。
私は縁あって1年前の彼を知っています。
1年前、学校の先生に対して「うっさい!」と言おうとしていたところを、
「う・・・さちゃん・・・」
と言い変えたのです。
「うさちゃん」って!なんてかわいいんや。うさぎじゃないところがええなあ。・・・と彼らしいワードチョイスに惚れ惚れしました。
そして最近も似たような出来事がありました。
彼がホースで水遊びをしている時でした。
急にホースを私に向けてきて、びしょぬれにされました。
ただやられたままだとめっちゃ悔しいので、私は彼に対して「あ~~~、気持ちいいわ~~~!」と大げさに言いました。
すると彼は「うそ~!・・・気持ちいいと・・・思った~・・・。気持ちいいと・・・思ってない~・・・。」と言いよどんでいました。
私にとっては違和感のある様子でわかりにくい言葉でした。
しかしたぶん彼が言いたかったのは「気持ちいいと言っているけれど、本当は気持ちいいと思ってないくせに~!」ってことだと思います。
これってすごくないですか!
「気持ちいい」という私の言葉と気持ち良くないようにしたびしょぬれとのギャップをなんとか説明しようとしたのです。
何も言わずに水をかけ続けたり、「うそ~」という単発の言葉で終わってもいいのに、自分なりに私の嘘の中身を言語化しようとしている姿がありました。
自制心(自己コントロール)の発達
さてここで発達的な話と絡めて、もう少し深堀していきます。
自分の意図を調整する発達的背景に「自制心」と呼ばれるものがあります。
「~しよう!」という自分の思いと「~してほしい」という相手の思いに折り合いをつけるということです。
この自制心が育まれる過程には、自分の思いが強める時期があります。
「もっと楽しいことしたい!」という自分の主張が強まっていく先に、「もっと楽しいことをするために我慢しよう」という自制心が育まれます。
不思議ですよね。一見わがままと思われるような自己主張を伸ばしていくと、我慢が見られると言うんですから。
でも発達心理学の領域ではそう言われています。
もう少し言うと自己主張の中身が充実してくるから、我慢をしようと思うということです。
例えば友達とブランコをする時、自己主張が強い時期だと「俺がブランコする!」と言ってなかなか譲れません。
しかしある時期になると、ブランコをするのも楽しいけど友達とブランコをするのも楽しいということがわかってきます。
だから友達にブランコを譲り、友達がブランコをしているのを「楽しいね」と共感的に見守ったり、友達のブランコをこぐのを手伝ったりします。
また同じようにブランコができることがわかるからこそ、「あとでブランコさせてね」と時間をずらして自己主張をするようになります。
もう少し突っ込んで話をします。難しい話かもしれませんが、私の思考整理のためにもご容赦ください。
この自制心が育まれる時期は「二次元可逆操作期」と呼ばれます。
例えばケンケンであれば「前に進むー進まない」という二次元と「片足を上げるー下げる」という二次元を結び付ける操作ができるということです。
我慢である自制心についても、自分の気持ちと相手の気持ちの2つを調整するという操作をしているのです。
ざっくり言うと、2つのことを1つにまとめることができることを二次元可逆操作と呼び、その操作の中に自制心があることを意味しています。
認識・言葉・行動など多岐にわたる自己調整機能である二次元可逆操作は自制心と結びついているのです。
ストレートにカールがかかる
発達の話と今回のエピソードをつなげます。
彼は私をびしょぬれにさせて、私が「気持ちいい~」という予期せぬリアクションをしてきたことに対して、「気持ちいいと思った~。気持ちいいと思ってない~。」と言葉を発しました。
この言葉こそ、自制心の芽生え(二次元可逆操作の芽生え)だと思われます。
気持ちいいと思っている相手の嘘と気持ちいいと思っていないはずという彼の確信の2つを1つにまとめようとする表現ですね。
(ニッチな話で申し訳ないですが、自分の思いと相手の思いの調整、相手の思いの中でも嘘と本当の調整という二次元可逆操作の入れ子構造とも言えそう…)
さらにこの言葉には成長が見られます。
1年前のうさちゃんエピソードは、相手を傷つけないような自分の立場からの言葉でした。
しかし今回は相手がどう思うかという相手の立場を踏まえた言葉になっているのです。
道路に飛び出したり、人を叩くなど、彼の行動からはストレートさは際立ったままですが、彼の姿を丁寧に見ていくと彼が成長している様子がわかります。
ストレート、ストレートと言っているとストレートヘアのことが思い浮かびます。そういえばストレートヘアに軽いカールを入れることをストレートカール、略してストカールと呼ばれるようです。
彼はストレートからカールに少しずつ向かっているストカールの時期なのでしょう。
ポケットに忍ばせた名刺
さて自制心を育むためにはどのような保育・教育が必要なのでしょうか。
ここが保育園や学校・放課後等デイサービスで求められる部分でしょう。
1つ目は自己主張を受け止めてもらえる信頼関係を作ることです。
自制心には、自己主張の充実が必要でした。
そのため自己主張を認めてくれる人との関係を作ることが大切です。
何でも言うことを聞くということではなく、その通りにならないかもしれないけれど自分の思いをわかってくれるような関係を作るということです。
2ヶ月前、家にいた彼は体育館に行きたい!という思いで、大雨の中1人で家を飛び出し、家族に大きな心配をかけたことがありました。
この件について私は彼に話をすると、彼はふてくされて黙っていました。
そこで私は彼に「体育館に行きたかったんやな。それはわかったで。ただ急におらんくなったらお母さんが心配するから、もし行きたい!って思ったらまずここに電話して。」と私の名刺を渡しました。
それからというものの、彼は私の名刺をポケットに入れてやってくるようになりました。
しかも汚れないようにフィルム製のスリーブに入れて。
嬉しいですね。
彼はまだ電話をしてきたことはありませんが、自分をわかってもらえるんだという気持ちの拠り所として名刺があるように思えます。
彼の自己主張を認めようとする姿勢はこれからも変わらず続けていきたいです。
あのつくやつ
2つ目に葛藤をする心を支えるということです。
自制心は自分の思いを調整することなので、ストレートに思いを出さない分、葛藤があります。
「したいけど・・・」「できないかもしれない・・・」
こうした葛藤は自制心には大切である一方、不安定な心の揺れ動きであるため、葛藤ができるように支えていくことが求められます。
さてまたまたストカールの彼に登場してもらいましょう。
友達を叩いて泣かせてしまった彼。別室に行き、私と1対1で話をしました。
私「(友達は)痛かったみたいよ。どうする?」
彼「あ・・・のつくやつ・・・する・・・」
あのつくやつとは、、、謝るということですね。
泣かせるつもりはなかったけど泣かせてしまった。
謝りたいけど、恥ずかしい。
彼の葛藤は「謝る」という言葉でなく、「あのつくやつ」という言葉となって現れたのだと思います。
結局、自分の口からは謝れず私が代弁する形で謝り、友達と仲直りをしてまた楽しく遊び始めました。
自分で言おうとしたけど言えなかったというのも大事な葛藤ですね。
「あのつくやつ」という言葉を紡ぎだし、自分で伝えようとする心の揺れ動きを支えることが、私に求められる関わりなのだと思います。
長くなりましたが、今後も彼に注目していきたいと手下は思うのです。
(りょうた)

