「5領域」に関する論考―今後の発達支援を見据えて―

 今回はかなり長文になってしまったのと、文体を少し硬めにしたこともあり、いつもより読みづらいと思われるので、以下に要約をまとめます。

 

 前置き:今年度から福祉制度が変わり、『「5領域」という観点から子どもの支援をしよう!』ということになった。

 ①「5領域」の義務化は、支援の質の向上を目的としている。

 ②「5領域」の文言は、主に保育所保育指針が参照されながら、障がいのある子どもへの支援を念頭に新たに作られた。

 ③「5領域」は、個別的・同一的子ども像を示している。

 令和6年4月より報酬改定が行われ、児童発達支援(児発)及び放課後等デイサービス(放デイ)は、「5領域」に沿ったサービス提供と支援プログラムの公表、個別支援計画への明記が義務付けられました。「5領域」というのは、「健康・生活」「運動・感覚」「認知・行動」「言語・コミュニケーション」「人間関係・社会性」の5つを指し、「5領域」から子どもを総合的に捉えて発達支援を行うことをねらいとしています。

 もともと「5領域」の位置づけとしては、放デイではなく児発のガイドラインに記載があるのみで、支援内容や個別支援計画を規定するほどではありませんでした。しかしこの4月から、児発の「5領域」を放デイまで適用範囲を広げ、かつ義務化をすることで、児発・放デイともに支援内容や個別支援計画を含めた発達支援の在り方に、一定の基準を設けることになったのです。

 この発達支援の「5領域化」は、程度の差こそあれ、今までのやり方を変える必要がある事業所が少なくなく、児発・放デイ界隈では大きな影響があったように見受けられます。私の事業所も例にもれず、「5領域」の観点から支援を行うことになりました。これからは「5領域」とともに発達支援に関わっていくことになったのですが、その前に一度立ち止まって「5領域」に対する論考を残しておき、今後の発達支援を考えていく足掛かりにします。

「5領域」義務化の背景

 まず、今年度より「5領域」が打ち出されるようになった背景を概観しておきます。2012年に児発・放デイが制度化されてから、今日まで約10年にわたり、支援における「質の向上」が重要視されてきました。例えば2014年の「障害児支援の在り方に関する検討会」では、「障害児支援の内容については、各事業所において理念や目標に基づく独自性や創意工夫も尊重されるものである。」と支援の多様性の意義を認める一方、「支援の一定の質を担保するための全国共通の枠組みが必要」として、支援が多様となった故に、質の低下が懸念されていました。

 昨年、厚労省主催の検討会において、「ピアノや絵画等のみを提供する支援は、(中略)児童発達支援として相応しくない」という報告書が出されたように、いわゆる「習い事的支援」が問題視され、より一層発達支援の質が求められることになりました。2024年4月から「5領域」という観点を導入することで、「5領域を全て含めた総合的な支援を提供することを基本」として、子どもの全体像を押さえた支援を目指し、子どもの一部分を技能的に特化させるサービスからの脱却を図ることで、支援の質の底上げが期待されたのです。

「5領域」が生まれた経緯

 児発や放デイのような障害児通所支援の文脈において、「5領域」という文言自体は、以前から使用されていました。管見の限りでは、2016年~2017年に行われた「児童発達支援ガイドライン」の策定検討会で初めて登場しています。

 検討会では、保育所保育指針、幼稚園教育要領等、子どもの発達に関する様々な既存の指針を参考にしながら、ガイドラインが練られていました。そして第2回の検討会において、厚労省所属で当時の障害児支援専門官が、児発オリジナルの「5領域」を初めて提示しました。この時に提示された「5領域」の枠組みは、現行の「5領域」と変わりはありません。

表 各分野ごとのねらいや内容に関する領域・区分

児童発達支援・放課後等デイサービス保育所保育指針、幼稚園教育要領、特別支援学校幼稚部教育要領、幼保連携型認定こども園教育・保育要領特別支援学校幼稚部教育要領(自立活動)
【5領域】 ①健康・生活 ②運動・感覚 ③認知・行動 ④言語・コミュニケーション ⑤人間関係・社会性【5領域】 ①健康 ②人間関係 ③環境 ④言葉 ⑤表現【6区分】 ①健康の保持 ②心理的な安定 ③人間関係の形成 ④環境の把握 ⑤身体の動き ⑥コミュニケーション

 その後の議論で、保育所保育指針等との整合性について、複数回にわたって提起されています。確かに保育所保育指針にも5領域があり、「健康」「人間関係」「環境」「言葉」「表現」に分けられています。児発の「5領域」と比較して、「健康」や「人間関係」、「言葉」のように似たような領域もあれば、「環境」や「表現」のように、異なる領域もあります。児発の担い手の多くが保育士であることを踏まえると、保育士養成の過程で学習したこととの相違を明らかにすべきという指摘でした。厚労省より「児童発達支援の原則」という項目は、保育所保育指針を参考にしたとの発言があり、5領域も参考材料となった可能性が十分に考えられるため、余計に児発と保育それぞれにおける5領域の棲み分けが求められたのでしょう。

 最終的にガイドライン上では、『幼稚園教育要領、特別支援学校幼稚部教育要領及び幼保連携型認定こども園教育・保育要領のねらい及び内容についても理解し、支援に当たることが重要である。』としながら、『児童発達支援センター等においては、子どもの支援として、保育所保育指針の「健康」、「人間関係」、「環境」、「言葉」及び「表現」のねらい及び内容に準じて支援にあたるとともに、障害のある子どもが家庭や地域社会で健やかに育つために、「児童発達支援」を提供するものとする。』と記載され、支援内容として5領域の記述が続くことになりました。要するに、他の教育・保育要領について理解をしつつも、基本的な方針として、全ての子どもへの支援に対しては保育所保育指針の5領域を、その中でも障がいのある子どもへの支援に対しては、児発の「5領域」を活用すると読み取れます。

 まとめると、児発・放デイの「5領域」という文言は、2016年より児発のガイドライン検討会の中で保育所保育指針を大いに参照しながら提案され、全ての子どもに対する支援とは別に障がいのある子どもへの支援として、新たに「5領域」が創設されたのです。

「5領域」の子ども像

 「5領域」が義務化された背景や「5領域」が登場した経緯を確認しました。児発・放デイが独自に作り出した「5領域」ですが、個人的に関心があるのは、「5領域」が示す子ども像です。つまり「どのように子どもを捉えたいか」という支援の核となる価値観です。「5領域」が大事にしたい子ども像を明らかにすることで、私が大事にしたい子ども像を見つめ直し、「5領域」と私との間にある現在の距離を理解することにつながります。

 改めて「5領域」とは、「健康・生活」「運動・感覚」「認知・行動」「言語・コミュニケーション」「人間関係・社会性」のことでした。これらを踏まえて考えうる子ども像は、①個別的、②同一的であるということです。ガイドライン策定で主に参考にされたと考えられる保育所保育指針と比較しながら、説明していきます。

 ①個別的というのは、子ども個人で完結していることを指します。保育での「環境」という領域に着目してみます。「環境」には、自然物や遊具、近隣の生活等、周囲にある環境に関心を持って働きかけたり、逆にそこから得たものを生活に活かしていくようなねらいがあります。「環境」という領域が入ることで、子ども個人だけでなく、環境との関わりを見ていく関係的な視点を持つことができます。児発・放デイでは、「環境」の代わりに「運動・感覚」や「認知・行動」が入っており、子ども個人の運動や認知といった、「個」に焦点を当てています。ただし補足として、保育でも「環境」を通して子ども個人の力量を高めようとしていますし、「健康」や「言葉」等、児発・放デイと類似して個に焦点化する領域があり、子どもを個別的に捉える視点を持っています。しかし「環境」ではなく、「運動・感覚」「認知・行動」が採用されている児発・放デイの方が、より「個」として子どもを見る志向は強いだろうと思われます。

 ②同一的というのは、どの子どもに対しても同じような姿で読み取ることを指します。保育の指針には、「自分なりに」という文言が出てきます。例えば、「表現」の領域では、「自分なりに表現する」と記載があり、「環境」では「自分なりに比べたり」「自分なりに考える」とあり、「言葉」では「自分なりに言葉で表現」とあります。つまり1人1人で異なるような、その子ならではの表現や考え方が重視されていることが分かります。

 児発・放デイの方は「自分なりに」のような表現は出てきません。例えば、「言葉」の領域では、「話し言葉や各種の文字・記号等を用いて、相手の意図を理解したり、自分の考えを伝えたりするなど、言語を受容し表出する支援を行う。」とあり、「認知・行動」では、「認知の特性を踏まえ、自分に入ってくる情報を適切に処理できるよう支援し、認知の偏り等の個々の特性に配慮する。」と記載があります。言語の受容・表出ができたり、特性の配慮によって適切な情報処理ができるような、ある一定の子ども像が期待されています。子ども間での違いを見るのではなく、どの子に対しても同一的な姿を読み取ろうとしていると思われます。

 個別的・同一的な子ども像は、パニックにならないように感覚への配慮をする等、実生活を過ごしやくするために有効な視点だろうと思われます。しかし私が普段から意識しているのは、関係的・差異的な子ども像です。「うっさい!」と言う子どもが、「もう少し静かにしてください」と言えるのではなく「うさちゃん」と言い換える方がその子らしさが表れて魅力的に感じますし、「うさちゃん」という言葉が生み出されるような関係性に興味が湧いてきます。どちらの子ども像も重要で、比重の置き方は人によって違いがあるでしょう。ここで強調しておきたいのは、どんな子ども像であれ、自らの子ども像に自覚的になり、子どもの捉え方や支援の在り方を問い直し続けることです。こうして記述してきたことがまさに、現時点の私自身の問い直し作業だったように思います。

 最後に「5領域」の義務化は、支援の質を上げるという目的で行われましたが、放デイの成り立ちとして、障がいのある子どもの放課後保障運動がありました。支援の質を追求していくことが、放デイの子ども達のゆとりある放課後や余暇を作っていくことと、どのように折り合いをつけていくのか、「支援の質」の意味とともに考えていきたいと思います。

(りょうた)

<参考資料>

・こども家庭庁支援局障害児支援課 (2024). 令和6年度障害福祉サービス等報酬改定(障害児支援関係)改定事項の概要

・厚生労働省 (2017). 保育所保育指針 (平成29年3月31日告示) Retrieved May 5, 2024, from https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00010450&dataType=0/

・児童発達支援に関するガイドライン策定検討会 (2017). 児童発達支援ガイドライン Retrieved May 5, 2024, from https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/32675809-3f98-486b-9c03-efc695ede0bb/3353cf86/20231013-policies-shougaijishien-shisaku-0000171670.pdf/

・社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課障害児・発達障害者支援室 (2016). 第1回児童発達支援に関するガイドライン策定検討会(議事録)  Retrieved May 5, 2024, from https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000147213.html/

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・社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課障害児・発達障害者支援室 (2017). 第5回児童発達支援に関するガイドライン策定検討会(議事録)Retrieved May 5, 2024, from https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000169419.html/

・障害児支援の在り方に関する検討会 (2014). 今後の障害児支援の在り方について(報告書)~「発達支援」が必要な子どもの支援はどうあるべきか~

・障害児通所支援に関するガイドライン策定検討会 (2015). 放課後等デイサービスガイドラインRetrieved May 5, 2024, from https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/12862028/www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000082829.pdf/

・障害児通所支援に関する検討会 (2023). 障害児通所支援に関する検討会報告書 ―すべてのこどもがともに育つ地域づくりに向けて―