見通しを持てなくても安心する

 6歳のいつきさんは、ままごとが大好きです。スタッフと一緒におもちゃの野菜や果物で料理を作って食べます。ただスタッフと遊んでいる時は、他の人には入ってきてほしくないようで、扉を閉めきってしまいます。仮に部屋に人が入ってくると、急に黙って相手の方をじっと見て「早く出ていって~」と目線で伝えます。

 スタッフとままごとで遊び続けて1年。いつきさんは遊びの途中で、窓から見える友達の姿を見て「何してるのかな?」と話すことはあるものの、基本的にはスタッフとままごと遊びが中心でした。ある日、1人の友達がいつきさんのままごとが気になり、遊びに入ってきました。友達は、いつきさんのペースに合わせて遊んでいました。いつきさんが「ハンバーグ作る」と言うと、「じゃあハンバーグの材料探さなくちゃね~」とおもちゃを取り出してきます。いつきさんが完成したハンバーグをすごい勢いで食べようとして、お皿に乗っていたおもちゃが散乱した時でも、「そんなにハンバーグが食べたかったんだね~」と受け止めてくれます。

 この出来事から、いつきさんが大きく変わっていきました。ままごとの部屋に行かず、友達のいる集団に入っていくようになりました。ままごと自体もあまりすることなく、友達と公園に行ったり、おにごっこをするようになりました。

 いつきさんが靴を履いて外に出ようとしていたので、「何するの?」と聞くと、

「分かんない。○○ちゃんのところに行ってみる。」

 え!分かんなくていいの?

 どんな遊びをするのか知らないと不安じゃない?と思っていたので、予想外の答えでした。今までのいつきさんにとっては、「何をするのか」はとても大事な関心事でした。ほどきにはままごとに使う道具を持ってきて、必ずままごとをしていましたし、友達の姿が見えた時も、何をしているのかをスタッフに聞いていました。それが自分の好きなままごとの世界に友達が入ってきてくれてから、「何をするのか」よりも「誰とするのか」を気にするようになりました。

 1年を通して、スタッフはいつきさんに寄り添ってじっくりとままごとで遊び、安心感を育んできました。その上での話にはなりますが、1度の友達の関わりが、いつきさんの遊び方を大きく変えることになったのです。スタッフを含めた大人にはない、友達という存在だけが持つ特別なパワーがあるのでしょう。

 よくある支援として、「見通しを持つと安心する」という考え方があります。何をさせられるのか分からないよりは、次にすることや起こることが分かれば、子どもは安心してその場に居られるという意味です。

 この支援を別の角度から見てみると、「見通しを持てなくても安心する」という考え方が浮かび上がってきます。いつきさんは、何をするのか分からない状況でも平気で外に出ていきました。遊びの内容はどうでも良くなる(気にならなくなる)ほど、また分からないけど何か面白いことが起きそう!と思えるほど、友達など人とのつながりに支えられたり期待したりする、より深い安心感が得られるのではないでしょうか。安心感よりも信頼感に近いかもしれないですね。

(りょうた)

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