音遊び

 7歳のトオルさんは、普段は静かなのですが、友達とノリが合うと大きな声が出てきます。友達が「ひきにくです!」と言うと、トオルさんは嬉しそうに「ひきにくです!」と続きます。「定期的にオ~ルバ~ック!」という歌声が聞こえてくると、ジャンプしながら「オ~ルバ~ック!」と歌います。遊びの合間で友達が発する流行りのフレーズで、トオルさんのテンションは上がります。

 ただいつも遊びが噛み合うというわけではありません。友達3人と外に遊びに出た時のこと。友達は持ってきたボールを使って、バレーボールを始めました。しかしトオルさんは輪に入ろうとせず、四つ葉のクローバーを探しながら周囲をウロウロしていました。私が誘っても、友達の方へ行くことはありません。ボールを受けたり、打ち上げたりする難しさがあったのでしょう。でも本当は友達と遊びたいのです。トオルさんも私も歩き回りながら、四つ葉のクローバーとともに、友達とのつながり方を探していました。

 バレーボールが終わり、友達がほどきに帰るのを見て、トオルさんもほどきへ向かいました。ほどきに戻ってきたものの、彼らはすることが見つからない様子で、棚に置いてあったおもちゃのコマを回していました。

 トオルさんはというと、室内に入るのかと思いきや、ほどきの周りで再びウロウロ。同じ時間に来ている女の子グループは公園に出かけていたこともあり、私から「公園に行く?」と聞くと、「う~ん・・・」と悩んでから「他の人達は行かないのかな・・・」と答えました。他の人達とは、もちろん室内にいる友達のことです。やっぱり自分だけで遊ぶよりも、友達と一緒に遊びたいんだなぁとしみじみ思いました。

 ですが、このまま何もしなければ、一緒に遊ぶことは難しそうです。私は外にあった薪を見つけて、「外で何か焼いてバーベキューしようか!」とトオルさんに提案すると、「いいね~」と乗ってくれました。バーベキューをしていると、友達が興味を持って参加してくれるかなという期待もありました。

 音からつながり始める

 その頃、暇を持て余していた友達は、スタッフの提案でコマが回る台を作ることになったそうです。ステンレス製のボールを木の板に当てて、ボールの周りを鉛筆でなぞって型取りをしようとしていた時のことです。1人の子がリズムよくボールを「コンコン、コンコン♪」と叩き始めました。それを見ていたスタッフは、「面白い!」と様々な大きさのボールや鍋を引っ張り出してきました。鳴らしてみると、「カンカン♪」「ゴンゴン♪」ときれいな高い音や低い音が出ます。ちょうど太鼓のバチがあったので、バチを取り出してきて叩いてみると、ドラムのように「カカカ、コココ、ドドド♪」と様々な音色がつながっていきます。「俺、ドラムセット作る!」とやる気満々。他の子達も「俺もしたい!」と、辺りにある空き箱やカゴを叩いて、自分が欲しい音を探していきます。

 トオルさんがバーベキューの準備で部屋に入ったのは、ちょうどこの時でした。友達がバチで叩くのを見て「おぉぉ~、いいじゃん、いいじゃん。」と興味津々。これはバーベキューじゃなくて、音楽の方がいいなと思った私は、友達の遊びに入っていくことにしました。いつの間にかトオルさんはタンバリンを手にしていました。友達が室内にあった物でドラムセットを作り上げるのを見ながら「いいじゃん!いいじゃん!」と気持ちを高ぶらせていました。

 鍋、段ボール、熊鈴…という楽器を並べ終えることができました。歌に合わせて楽器を鳴らしたいということで、「怪獣の花唄」に乗せて演奏することにしました。速めのテンポで、スタートからみんながノリノリです。なんといってもサビに入る「もっと、さ~わ~げ~怪獣のう~た~」の凄まじさはもう圧巻でした。

 友達も一生懸命に演奏していたのですが、ひと際すごかったのは、トオルさんです。「怪獣のう~た~」のリズムに合わせて片足を上げて、体の全身をしならせながらタンバリンを叩いていました。途中で体をギューっと小さくさせながら、力を込めて素早く何度も叩いたり、両手でタンバリンを持ち上げ、笑顔でシャラララ~と小刻みに振っていました。音楽にたっぷり浸っていて、それはそれは夢中でした。こんなに全身で表現するトオルさんは初めて見ました。

 子ども達の充実感は、終わってからの様子からも明らかでした。トオルさんは珍しく友達に「またやりたい!」と言ったり、他のスタッフに「バンドやってるから、見に来ていいよ!」と話しかけていました。友達も「今までで1番楽しかった!絶対来週もしたい!」と興奮冷めやらぬ状態でした。翌週も、その次の週も、トオルさんは友達に「バンドしよう!」と声をかけ、グイグイと近づき、バンド活動が続いていきました。

 音遊びへのプロセス

 トオルさんが友達とつながれたのは、紛れもなく音遊びのおかげでしょう。それは友達とのごっこ遊びや外遊びなどとは、また違う感覚のつながり方だと思います。彼は思いのまま好きなように音を鳴らしていました。でも子ども達の音はバラバラになっていくことなく、それぞれが良い味を出しながら重なり合って、1つの音楽になっていました。

 子ども同士で遊ぶ場面では、「自分の思うまま」を抑えることがあります。例えば、自分が使っていたおもちゃを友達に譲ったり、与えられた役割やルールに沿って動いたりします。「自分の思うまま」を調整して、「友達とつながる」ことに結びついていきます。しかし音遊びというものは、「自分の思うまま」(の表現)を調整せずとも、いやむしろ押し出していくことで、「友達とつながる」に結びつくという大きな特徴があるんじゃないかなと思います。「自分の思うまま」を調整しないで良いというのは、すでにたくさんのステキなものを持つ「今の子ども」を引き出してくれる温かさが音遊びにあるということです。

 こうして音遊びの良さを理解したわけですが、一足飛びにスタッフから活動に取り入れようとしても、たぶん上手くいかなかったと思います。大人からの「させられ感」がありますし、実感として音遊びの面白さが分かりにくいからです。いかに「音遊びをするまでの過程」を支えるのかが大切になってきます。今回の場合は、子どもがコマの台作りから逸れて、何気なく音を鳴らして遊んでいるのをスタッフも一緒に面白がり、様々な音を鳴らす方向に広がっていきました。トオルさんもみんなが楽しそうに音を鳴らすのを見て、バーベキューの準備から音遊びへと入っていきました。活動からはみ出したところで子どもが自発的に楽しむ姿を捉え、そこからもっと面白い形へとスタッフが誘っていくことで、子ども達は音遊びにハマっていったように思います。

(りょうた)